キミはもう、五つのセカイを観測したか

2020年9月30日にリリースされた「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク

何の気なしに「最近のボカロ曲よく知らないな」と思いインストールしたところ、

あまりにも『ちゃんと作られているゲーム』だったので、めちゃくちゃ感動した
(企業のゲームに対してこのような表現は失礼なのですが……)

そのこだわりポイントを紹介しようと思う。

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▽『DIVA』『チュウニズム』のSEGAと『ガルパ』のCraft Eggが開発したリズムゲーム

本作は、VOCALOIDリズムゲームだ。
『メルト』『ワールドイズマイン』といった、長く愛され続けてきた名曲から、
『ロキ』『ダンスロボットダンス』等、比較的最近の話題曲まで収録されている。
また、本作のための書き下ろし楽曲も多数存在する。
音楽に合わせて上から降ってくるノーツを、タップ、長押し、フリックして遊ぶ。

また、アドベンチャーゲームとしての側面が強い作品でもあり、
初音ミク鏡音リン・レンなどのおなじみのキャラクターの他に、
総勢20名(2020年11月現在)のオリジナルキャラクター達が登場する。

この記事では、このアドベンチャーゲームとしての側面に焦点を当てて、掘り下げていく。

▽五人の初音ミク = 五つのセカイ

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容姿も性格も異なるこちらの五人。
一番右の子に至っては、特徴的な青緑色の髪の毛ですらないが、全員初音ミクだ。

そもそも初音ミクとは、という話をすると長くなってしまうので、興味がある方は各自調べてもらいたい。

私たちが今想像する初音ミクは、どんな姿だろうか。
どんな歌を歌っているだろうか。
おそらくその答えは、『多種多様』になるのではないだろうか。

黒とショッキングピンクのチェック柄に、白いワンピースで寝転ぶわがままな女の子の『ワールドイズマイン』。
マジカルミライの公式ソングで、パキっとした画風でSFチックに描かれる『ネクストネスト』。
つまり、初音ミクとは、楽曲の数だけその姿が存在する、ということになる。

ローリンガール』では、楽曲の動画に初音ミクのイラストは描かれていない。
しかし、楽曲をもとに作られたモノクロの世界を転がるPVが有名だ。
この曲以外にもこういった例は数多くある。
つまり、初音ミクとは、解釈の数だけその姿が存在するのである。


先で示した五人の初音ミクは、それぞれ本作で描かれる五つのセカイに対応している。

・バンド × 初音ミク
・アイドル × 初音ミク
・ストリート × 初音ミク
・ミュージカル × 初音ミク
・アングラ × 初音ミク

それでは、次の項でこの五つのセカイと初音ミクの関係について説明する。

▽シブヤの少年少女が紡ぐ五つの物語

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本作のオリジナルキャラクター達は、希望や悩みを抱えながら生活している高校生たちだ。
そんな彼らの共通点は初音ミクの曲を聴いている』ということだ。

ある日、彼らのスマホ『Untitled』という曲が現れる。
直訳すれば『無題』。まだまだ始まったばかりの彼らを象徴するかのような曲だ。
その曲を再生することで、彼らは『セカイ』へといざなわれる。

セカイでは、バーチャルシンガーの初音ミクたちが待っている。
また、同じ想いを抱えた人物が、同じセカイへとやって来る。
彼らは、セカイは『自分たちの想い』でできた場所なのだと説明される。
セカイや初音ミクたち、そして同じ想いを抱えた仲間を通じて『本当の想い』を見つけたとき、
『Untitled』が、一つの曲として完成する。

現在公開されているユニットのストーリーはこのようなものだ。
本作の五人の初音ミク、そして五つのセカイは、それぞれ『夢の象徴』であり、『彼らに寄り添ってくれる存在』、そして『彼ら自身』でもあるのだ。

▽ゲームを遊ぶ『プレイヤー』の位置づけ

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ここまでで、本作がメッセージ性の強い作品だということは分かっていただけたと思う。
しかし、このままでは、ゲームを遊ぶ私たちは蚊帳の外である。
キャラクターゲームでよくあるのが、プレイヤーを登場人物たちの『協力者』にするというパターンだ。
彼らの成長を見守り、応援するパートナーとしてなら、ストーリーの中にも無理なく登場することができる。

だが、本作はもう一歩踏み込んだスタイルをとっている。


ゲームを初めてインストールすると、不思議な空間で歌を歌う初音ミクに出会う。
私たちがよく知っている、おなじみの髪の色、おなじみのコスチュームだ。
彼女は私たちに気がつき、こう言う。

「こんにちは。ここに誰かが来るなんて、珍しいな」
「ここは、セカイの狭間
「たくさんの想いが集まって、そして、たくさんの『セカイ』が生まれる場所だよ」
「わたしはここで、それぞれのセカイから歌が生まれるのを見守ってるんだ」

なんというところに来てしまったのだろう。
私たちは実は、このゲームの最初に初音ミクに出会っていたのだ!
キャラクター達の『協力者』は、初音ミクだ。
今までプレイヤーが背負ってきた役割を、初音ミクが背負っているのだ。
それでは私たちは何なのか。それは、デフォルトネームに表れている。

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セカイの住人。
私たちもまた、夢を追う彼らと同じなのだ。
自分だけのセカイ。誰かと目指すセカイ。それぞれのかけがえのない想いを抱えたセカイを、持っている。

ここで「セカイとは」「楽曲とは」という説明をされるのだが、ストーリーを把握していない私たちには分かるはずもない。
それでも、彼女はこう言ってくれる。

「みんな心の奥に強い想いを持ってるんだ」
「もちろん、キミの心の中にも」
「……ねえ、わたしと一緒に歌ってみない?」
「きっと、歌がわたしとキミの心を繋いでくれるはずだから」
「さあ、キミの想いを教えて!」

リズムゲームチュートリアルが始まる。
流れる曲は――

Tell Your World

youtu.be

Google ChromeのCMに使用されたこの曲。
初音ミクを題材にしたCMで、多くの注目を集めた。
このCMには、私がここまでさんざん書いてきたようなことがぎゅっと詰め込まれている。
またこの曲は、各難易度でも一番易しい入門曲となっている。
もう何も言うことなし。完璧。すごい。えらい。

この導入で、私は本作にぐっと引き込まれることとなった。

▽『セカイ』の演出

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この作品のストーリーは『現実世界』と『セカイ』を行き来するという特徴を紹介した。
そこでセカイが切り替わるときに、必ず流れる演出がある。
白い背景に、カラフルな三角形が右から左へと広がりながら流れていくという演出だ。
この記事の一番最初に置いた画像がそれである。

この演出は、実はストーリー外でも使われている。
ゲームを起動し、タイトルロゴをタップしたあと。
リズムゲームの楽曲を選択して、曲が流れ始める直前。

ようこそ、セカイへ。

私たちはこのゲームを通して何を感じ、何を得るのか。
曲を通じて、何を考えるのか。
その答えはいつか、一つの曲になるのかもしれない。

▽イベント、そして『バーチャルライブ』

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ここまでアドベンチャーゲームの側面を紹介してきたが、最後に一つ紹介したい機能がある。
目玉機能の一つである『バーチャルライブ』だ。
こちらは、3Dのキャラクター達のライブを、他のプレイヤーとリアルタイムで楽しめるという機能だ。
ペンライトを振ったり、演出を盛り上げるアイテムを使用したり。
その時その時でしか味わえないライブ感を、ゲームで体験することができる。

ライブが開催されるタイミングは、現実世界の私たちの時間とリンクしている。
ゲームがリリースされた直後の一週間。
ソーシャルゲーム的な意味でのイベントが終わったあとなど、まさに『お祭り』として開催されているのだ。

また、ライブを開催しているキャラクター達は、それがライブであること、誰かに向けてのパフォーマンスであることを認識していない。
彼らはただ、ひとつの曲に辿り着き、激しいきらめきの中に身を置いているだけなのだ。
それを私たちが、ライブとして観測して、友達と盛り上がっているという構造は、なかなかすごいことではないだろうか。
機能の紹介といえども、アドベンチャーの側面に対して外せない要素の一つだ。


2020/11/05 P.S.
「キャラクター達は、それがライブであること、パフォーマンスであることを認識していない」と書いたのだが、
「HAPPY ANNIVERSARYライブ MEIKO」に参加して、
バーチャルシンガー達は例外で、ライブであることを認識しているということが分かった。

また、☆1のバーチャルシンガーのサイドストーリーを読んだところ、
本作のオリジナルキャラクター達が初音ミクのライブを見る手段も、
3Dホログラムの「バーチャルライブ」であるということが分かった。

『セカイ』のキャラクターとプレイヤーを繋いでいるのはバーチャルシンガーである。
この文脈を補強する要素がこんなところにも仕込まれていたのだ。

▽その他

多く語りたいところは語ったので、その他好きなところ、すごいと思ったところ。
・始めた直後のテキストの多さにびびる。
・キャラクターの会話多すぎ。(褒めています)
・『ボカロ曲はボカロが歌わなければボカロ曲ではないのか』問題に切り込んでいっているところ。
・画面の遷移がタップ数が少なくできるところ。


・ガチャが渋いのは勘弁してほしい。まじで。



長い文章、読んでいただきありがとうございました!!

pjsekai.sega.jp